乗用車のサブスクリプションサービスなどを展開するモビリティブランド「KINTO」。2022年8月からmicroCMSの導入を開始し、コーポレートサイトやサービスサイトなど、数多くの場面で活用されています。
今回は、ディレクターの田村翔さん、フロントエンドエンジニアの片岡真吾さん、加藤夏香さん、マーケティング企画部主任の中尾文章さん、白井敦子さんに、microCMSの導入背景や利用状況などをお話しいただきました。
導入の背景:厳しいセキュリティ要件に対応可能なヘッドレスCMS
microCMSの導入前にはどんな課題があったのでしょうか?
-田村さん
最初にmicroCMSを導入したのは、KINTOのサービスや自動車にまつわる情報を発信する「コラム」のページです。現在はメインドメインであるkinto-jp.comのサブディレクトリに置かれていますが、以前は別のサブドメインにWordPressで構築されていました。ページの性質を鑑みるとサブドメインではない方がよいだろうという議論があり、移管することになったんです。
ただ、メインドメインの下にWordPressを移すとなると、環境構築コストがかなり高くなります。それならば、この機会にヘッドレスCMSを使ってみようと検討を始めました。
-中尾さん
KINTOではウェブサイトのセキュリティリスクを厳しく管理しています。WordPressの魅力のひとつはさまざまなプラグインが充実している点だと思いますが、当社のセキュリティ基準では気軽に運用しにくいという事情もありました。アップデートにその都度対応して動作テストをするにも手間がかかるなど、せっかくWordPressを利用していても十分に活かしきれていないという感覚があったんですよね。
microCMSを選んだ決め手はなんだったのでしょうか?
-田村さん
日本語で提供されていることや、サービスサイトがわかりやすかったことがきっかけです。セキュリティ要件に合致していることも重要で、監査ログ機能や接続IP制限など、当社の基準を満たしていたヘッドレスCMSはmicroCMSだけでした。
個人的には以前WordPress REST APIを使っていた経験があり、APIを設計して出力するという意味でWordPressとほとんど同じことができそうだと考えて、microCMSの導入を決めました。
-白井さん
記事入稿などを行う運用チームとしては、WordPressで使っていた機能が変わらなければ問題ないとお伝えしていました。
ただ、移管した当初はそれまで使えていた機能をそのままmicroCMSで実現するのは難しく、現場では使いづらいなと思うところも多かったというのが正直な感想です。フィードバックと改修を重ねた結果、現在ではとても使いやすくなっています。
活用の状況:コーポレートサイトもサービスサイトもmicroCMSを活用
現在はmicroCMSをどのように利用されていますか?
-田村さん
コーポレートサイトの「ニュース」の部分や、サービスサイトの「コラム」や「イベント情報」の部分はmicroCMSです。
「KINTO ONE 中古車」のサービスサイトでは一部の商品ページに動画を掲載しているのですが、ここではmicroCMSをメタ的に利用していて、情報を出し分けるための番号管理を行っています。
また、サービスサイトの車種ごとの個別ページでは、関連するコラム記事へのリンクをページ下部に設置しています。この部分はmicroCMSのAPIを呼び出すことで実装しています。
-片岡さん
技術的にはJamstackな構成を取っていて、フロントエンドのフレームワークはVue.jsベースのNuxt.jsを使用しています。サーバーサイドのインフラはAWSのS3 + CloudFrontで、SSGで静的ファイルを生成して配信しています。自前でサーバーを持たなくていいのでコストを抑えられますし、チームメンバーにはフロントエンド寄りのスキルセットをもつエンジニアが多いので、インフラ面は運用しやすい構成にしています。
導入理由の場面でも話題になりましたが、KINTOではセキュリティの担保を重視しています。管理画面へのアクセスに対するIPアドレス制限や、2要素認証の必須化、監査ログ機能の運用など、セキュリティに関する機能も活用しています。
白井さん
「コラム」のページでは、月に15本ほどのペースで記事を公開しています。microCMSに移行する以前は月に3本程度でしたが、あるべき情報が不足なく掲載されている状態を目指し、記事制作を強化しました。公開前の社内チェックには画面プレビュー機能を使い、チームメンバーや上長の確認を依頼しています。
導入の効果:「やりたいこと」への道筋がわかりやすい
導入してから、microCMSの良さは感じられましたか?
-中尾さん
ページの表示速度は格段に速くなりました。以前は社内からも「遅い」「重い」と指摘されていましたが、かなり改善されたと思います。SEO的にも波及効果があるのではないでしょうか。バナーなどのA/Bテストも実施しやすくなり、コンバージョン改善にもつなげられたらと思っています。
-田村さん
A/Bテストは単純にテストツールを入れてもうまく動かせないので、microCMSの管理APIで共通ブロックというパーツを用意して記事に差し込めるようにし、その共通ブロックにスクリプトを書くことで実現しています。
APIスキーマを追加することで簡単にテストができるのはmicroCMSのメリットですね。特に「コラム」ページはメインドメイン配下にあるため、気軽には変更を加えられません。microCMSの管理画面の範囲でできることは多く、後方に波及しないような設計ができているので、いろいろな施策を試しやすくて助かっています。
-加藤さん
「こんなことをやりたい」という要望があったとき、どんなふうにスキーマを工夫したらいいのかが考えやすいのがmicroCMSの特徴だと感じています。シンプルな仕組みなので、工夫次第でなんでもできるという印象です。管理画面をデザインするのも簡単でいいですね。
-片岡さん
試してみたいアイデアはすぐにテストしたりモックを作ったりできますね。ドキュメントが充実しているのですぐに調べられますし、視覚的にAPIの設計ができるのが嬉しいです。APIプレビューを使いながら「こうするとレスポンスがこう返ってくるから、これで実装できそうだね」などとチーム内で話し合いながら設計を進められます。
開発で工夫した点を教えてください。
-田村さん
任意の記事に対して関連記事を表示させる仕組みを設計しました。移行した当初はうまくできずに手作業でリンクさせていたのですが、現在は自動連携して関連記事を引っ張ってこれるようにしています。元の記事タイトルを変更したりしても自動でタイトルが更新されるようになりました。記事に持たせているタグなどの情報から関連記事を判定して、管理画面上で表示する記事を選べるように設計しています。
情報の一元管理でさらにフレキシブルなサイト運営も視野に
microCMSに期待していることはありますか?
-中尾さん
検索機能がもっと使いやすくなってほしいです。コラムに記載している商品の価格やプランの名称が変更になった場合などには、管理画面で一括検索したり置換したりする機能があればもっと便利になると思うんですよね。
-田村さん
変更履歴の差分がわかりやすく表示されるといいですね。現状の変更履歴では「いつ誰が更新したのか」という情報しか出てきませんが、差分がハイライトされて表示されるとありがたいです。
-片岡さん
公開時刻をたとえば9時00分ちょうどにしたいようなケースは多いのですが、SSG構成だと「ちょうど」の投稿をするための工夫と手間が必要になります。この部分がmicroCMSのみで完結すると大変ありがたいです。
microCMSの今後の活用計画はありますか?
-白井さん
社内スタッフが試乗動画を撮影したり、レビュー記事を制作したりと、メディアとしての活動の幅が広がってきています。記事に著者情報を追加するなど、より充実させていければと思います。
-片岡さん
サイト内には手で運用しているところも残っているので、そうした部分のデータ管理にもmicroCMSを活用できたらと考えています。
-田村さん
サイトの情報設計をしっかり整理すれば、すべてのコンテンツをCMSに載せ替えられるんじゃないかという議論もしています。すべてをCMSで管理できれば、サイトの運用担当者がフレキシブルに状況を判断しながら更新できるようになるはずです。壮大な展望かもしれませんが、microCMSを使えば実現できるような気がしています。
取材協力:エディット合同会社(ライター:藤井亮一 撮影 : 関口佳代)