名古屋(愛知県)を中心に、東京、北陸、東海の4つの拠点で7銘柄の新聞を発行する、株式会社中日新聞社。名古屋ウィメンズマラソン、大相撲名古屋場所などのスポーツイベントや文化事業も数多く展開しています。2024年4月には、地域の企業・自治体が地域住民に情報発信を行うスマートフォンアプリ「Lorcle(ロークル)」をローンチしました。
同社では、企業・自治体がLorcle上でコンテンツを制作する際のツールとしてmicroCMSを導入。現在は約70の自治体と約70の企業団体(掲載時点)がmicroCMSを活用しています。
今回インタビューしたのは、中日新聞社 新ビジネス推進局 Lorcle事業部 部長 仙波功介さん、中尾吟さん、大藪寛之さん。そして、microCMSの導入を担当されたフューチャーアーキテクト株式会社 Technology Innovation Group マネージャー 古草晨人さん、シニアコンサルタント 市川浩暉さんにもお話を伺いました。microCMSの導入背景や利用状況などを詳しくご紹介いただきました。
(写真左から大藪寛之さん、中尾吟さん、仙波功介さん、市川浩暉さん、 古草晨人さん)
導入の背景:地域連携を支える情報発信プラットフォーム「Lorcle」の構築
microCMSを導入した背景を教えてください。
-仙波さん
弊社では、2021年頃から、地元企業や自治体などとの連携を通じて、価値ある情報やサービスを提供する構想「SCOOP(Services of Chunichi Open Operation Platform)」構想を推進してきました。
このプロジェクトの一環として開発したのが、自治体や事業者などさまざまな地域の関係者とともに情報発信を行うプラットフォーム「Lorcle」です。コンテンツを管理するためのCMSをどうするかを決めるにあたり、SCOOPプロジェクトに協力いただいているフューチャーアーキテクト様とともに検討を重ねていきました。
-フューチャーアーキテクト・古草さん
当社はこれまで中日新聞社様のIT戦略パートナーとして、SCOOP構想の策定や具現化を支援してまいりました。今回の取り組みは、SCOOP構想の第二弾として、地元企業や自治体などとの連携を通じて生活者に身近な地域情報を提供する「地域情報発信プラットフォーム」の実現を支援させていただきました。
さまざまな選択肢を検討する中で、情報発信の核となるCMSを期間やコストの観点からスクラッチで構築するのは効率的ではないと判断しました。中日新聞様が実現したいことを定義した上で、ヘッドレスCMSを利用するのが最善であると判断し、複数の候補を比較しながら、中日新聞社様とともに検討を進めました。
導入の決め手は何だったのでしょうか?
-フューチャーアーキテクト・古草さん
一番は、UIや機能面での使いやすさです。今回はさまざまな自治体や企業の職員が参加するという前提があったので 、ITリテラシーが異なる方々に対応するため、UIがシンプルなものである必要がありました。UIや機能面でもキャッチアップしやすいものを比較検討した結果、microCMSが良いのではないかと考えました。
また、導入実績が豊富な点も大きなポイントでした。事例の数が多く、ドキュメントも充実していました。サポートの手厚さや、継続的なアップデートが続いていることも重視しました。
-仙波さん
権限設定の柔軟さも決め手となりました。Lorcleでは、ユーザーがコンテンツを制作する際に、他の企業や自治体が書いた記事が見えないようにする必要があります。他の比較対象のCMSはその点が容易に実現できない仕様でしたが、microCMSは権限(ロール)によってユーザーごとに使える機能を制御でき、コンテンツを管理できる仕組みが整っていました。多くの人が参加し、それぞれが独自にコンテンツを管理したいという弊社のニーズに非常にマッチしていたのです。
活用の状況:アプリの全コンテンツをmicroCMSで管理。月に約1,000件の配信が可能に
microCMSをどのように利用されていますか?
-仙波さん
現在、Lorcle内のほぼ全てのコンテンツをmicroCMSで管理しており、自治体・事業者がmicroCMSで作成したコンテンツが日々配信されている状況です。
配信件数でいうと、ひと月で約1,000件、平均すると1日30件程度になります。ただ、日によってばらつきがありますね。最も配信が多いのが金曜日で、100件を超えることもあります。また少しずつ、予約投稿機能を活用される自治体・事業者も増えてきました。
microCMSを利用したコンテンツの運用フローについて教えてください。
-中尾さん
最初は広報担当者が集中的に運用を行っているケースが多いですが、ある程度運用が進んできた段階で、ほかの部署の職員が記事の下書きを作成し、それを広報でレビューしてから公開する運用をしているところもあります。
また、各自治体の公式サイトなど、Lorcle以外の別の媒体で発信していたコンテンツをそのままコピーして入稿している自治体も多いですが、最近はオリジナルの記事を作成している自治体も増えてきました。進んでいる自治体では、定例コーナーを作り、「今週末の見どころ」といった情報を定期的に発信しています。
LorcleとmicroCMSとの連携部分の技術構成について教えてください。
-フューチャーアーキテクト・市川さん
BFF(Backends for Frontends)の構成を取っています。アプリとmicroCMSとの間にバックエンドサーバーを設置し、そこが橋渡しをするような形ですね。
当初から、ユーザーが選択した居住地や興味のあるジャンル・地域に基づいて記事を出し分ける要件や、記事が公開された際にユーザーの端末へプッシュ通知を送信するという要件がありました。これに対応するために、バックエンドサーバーを設け、そこからmicroCMSにリクエストを送ってコンテンツを取得し、ユーザーに最適なコンテンツを届けるという技術構成にしています。
microCMS上で記事が更新された後は、Webhookの機能でバックエンドサーバーに内容を連携しています。アプリから多くのリクエストが送られてくるため、データ送信の速度や効率の観点から、microCMSの前段でCDNを構え、記事の更新通知をもとにキャッシュのクリアを実行した後に、その変更がユーザーに反映されるようになっています。
導入の効果:直感的な操作性が支持され、半年で約70の自治体・約70の企業団体が利用
microCMSの導入後、どのような効果が得られましたか。
-中尾さん
ローンチから約半年で約70の自治体と約70の企業団体にLorcleをご利用いただけているのは、microCMSの使い勝手の良さが大きな要因だと思っています。
自治体や企業の広報担当者の中には、過去に扱いにくいCMSを使ったことで業務負担が増えてしまった経験があって、CMS自体に忌避感を持っている方もいらっしゃいます。そのため、最初はLorcleの利用にあまり意欲的でない方も多いのですが、実際にデモンストレーションを行いながら説明すると、「こんなに簡単なんですか」と驚かれることが多かったです。
-大藪さん
microCMSの直感的な操作性を見て「誰でも使える」という点が受け入れられ、採用を決定してくださった自治体が多くあります。自治体・企業ともに、「これまで見た中で最も使いやすいCMSだ」というのが共通の評価です。もし他のツールを使っていたら、ここまでの賛同は得られなかったと思います。
-フューチャーアーキテクト・古草さん
スクラッチで構築した場合、エンジニアによる CMSのメンテナンスが必要となるケースが多いと思います。特にリリース直後は、運用面の混乱やエンジニアが付きっ切りになるような想定外のトラブルもあるかと思います。しかし、今回のmicroCMSの運用に関しては、ユーザーの追加やコンテンツ管理などは、リリース直後からすべて中日新聞社様自身の手で管理されていて、我々はほとんど関与していません。
開発面のコスト削減はもちろんですが、スクラッチで構築したCMSと比べて、エンジニアの手離れが良くスムーズに運用への移行ができるという点で、運用コストの削減効果が非常に大きいと感じます。
提供エリア拡大を視野に、さらなるコンテンツの拡充を目指したい
今後、microCMSに期待していることはありますか?
-仙波さん
ロールの削除作業がもっと簡単にできるようになるといいですね。期間限定で使用するロールを作成した際、使用期間が終わったあとに1つずつ手動で対応していかなければならなくて、もっとスマートな方法がないのかと感じました。また、ロールの設定ごとコピーできる機能もあれば、さらに作業負担は軽減されると思います。
また、コンテンツの複製機能も欲しいですね。今は同じAPIであれば複製できますが、異なるAPI間でもコンテンツを複製できるようになるとありがたいです。
今後、microCMSをどのように活用していきたいですか。
-仙波さん
Lorcleは現在、中日新聞社のみが運用していますが、将来的には他の企業にも管理者側として関与してもらったり、東海三県以外にも提供地域を広げていったりする構想があります。
今後規模が拡大するにつれて、中日新聞社が全てを管理するのは難しくなってきますので、マルチテナントのような仕組みを導入し、各社に一部の管理を任せられると良いのではないかと考えています。
-フューチャーアーキテクト・市川さん
現在は自治体や事業者の皆様が1つずつ画面から記事を入力していますが、microCMSのAPIを活用し、様々なシステムと連携を行い、より効率的にコンテンツの入稿をしていけるようにしていきたいですね。
たとえば、中日新聞社のシステムとmicroCMSを当社の基盤を介して接続し、API経由で自動的に記事を入稿できるようにしたり、自治体のシステムと連携して災害情報を発信できるようにしたり。そういった連携が実現すれば、自治体職員の方々や中日新聞社様の負担を増やさず、さらに多くのコンテンツを提供できるようになると思います。
取材協力:エディット合同会社(ライター:中村英里 撮影 : 八木智三)